研究トピック
No.4ブラジル産赤いプロポリスの機能性
プロポリスは、ミツバチが周辺の植物の新芽や樹液を集めて自らの唾液と混合した樹脂状物質で、巣の隙間を塞いだり、その抗菌活性により巣内を清潔に保つために利用されると考えられています。
プロポリスは、古来より世界各地で民間伝承薬として用いられ、最近ではサプリメントとして広く利用されています。赤いプロポリスは、ブラジル北東部沿岸地域のアラゴアス州などで採取され、一般的なブラジル産のグリーンプロポリスとは起源植物、含有成分とも全く異なることから、近年注目されています。
アピは、岐阜県国際バイオ研究所や静岡県立大学などと共同でブラジル産赤プロポリスの機能性について研究を進めてきました
ブラジル産の赤プロポリスの起源植物はマメ科のDalbergia ecastophyllum (図1)で、海水と淡水が混じる湖、沼、川沿いに多く生息し、マングローブ林に巻き着いて生えています。赤い色はこの樹液に由来します。赤プロポリスから色素を精製・単離し構造を決定したところ、図2に示すような特徴的な分子「retusapurpurin A」であることが分かりました。また赤プロポリスにはこのほかにも、(3S)-vestitolをはじめとするイソフラバン類が豊富に含まれていることが明らかとなりました。
ブラジル産赤プロポリスの抗肥満機能を検討するため、3T3-L1前駆脂肪細胞に対する赤プロポリスエタノール抽出物の効果を調べました。その結果、赤プロポリス抽出物は10-30μg/ml の添加で強く3T3-L1前駆脂肪細胞の脂肪細胞への分化を引き起こし(図3)、PPARγおよびアディポネクチン遺伝子の発現を増強しました(図4)。さらに、TNF-α によるインスリン感受性低下を抑制する効果も認められました。
肥満は、脂肪細胞の肥大化が根本的な原因であり、インスリン抵抗性を介して高血圧、高脂血症、糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病を引き起こします。生活習慣病の予防、改善には脂肪細胞の肥大化を抑制し、代わりに小型脂肪細胞を増やし活性化することが重要と考えられます。赤プロポリスはこれらの効果を通して生活習慣病の予防に役立つと期待されます。
つぎに、THP-1マクロファージにおけるATP結合カセット輸送体A1(ABCA1)の発現とコレステロール流出に対する赤プロポリスエタノール抽出物の効果について解析しました。赤プロポリスエタノール抽出物は、5-15μg/mlの濃度でABCA1のmRNAとタンパク質を増加させ(図5) 、 ApoA-Iを介したコレステロール流出を増加させました(図6)。 ABCA1の増加には、転写因子PPARγ及び肝臓X受容体α(LXRα)の発現上昇およびそれぞれの転写調節活性の増強が関与していると考えられました。ABCA1はコレステロールの細胞外流出を調節することにより高密度リポタンパク質(HDL)の生合成に直接関与する膜輸送体です。ABCA1はコレステロールの恒常性とHDLの代謝に中心的な役割を果たすことから、その発現を増加させる赤プロポリス抽出物は、動脈硬化の予防や改善に有益であると考えられます。
ブラジル産レッドプロポリスの構成成分に関する研究
幡野愛1、吉野恵美1、杉山靖正1、田澤茂実2、荒木陽子2、熊澤茂則1
1静岡県立大学大学院生活健康科学研究科食品分析化学研究室
2アピ株式会社長良川リサーチセンター
日本農芸化学会2011年度大会要旨集
Ethanolic extracts of Brazilian red propolis promote adipocyte differentiation through PPARγ activation.
Akio Iio1, Kenji Ohguchi1, Hiroyasu Inoue2, Hiroe Maruyama3, Yoko Araki3,
Yoshinori Nozawa4, Masafumi Ito1
1 Gifu International Institute of Biotechnology
2 Department of Food Science and Nutrition, Nara Women’s University
3 Nagaragawa Research Center, Api Co. Ltd.
4 Department of Food and Health, Tokai Gakuin University
Phytomedicine. 2010 Oct;17(12):974-9. Epub 2010 Apr 10.
Ethanolic extracts of Brazilian red propolis increase ABCA1 expression and promote cholesterol efflux from THP-1 macrophages.
Akio Iio1, Kenji Ohguchi2, Hiroe Maruyama3, Shigemi Tazawa3, Yoko Araki3, Kenji Ichihara3, Yoshinori Nozawa4, Masafumi Ito1
1 Gifu International Institute of Biotechnology
2 Department of Human Nutrition, Sugiyama Jogakuen University
3 Nagaragawa Research Center, Api Co. Ltd.
4 Department of Food and Health, Tokai Gakuin University
Phytomedicine. 2012 Mar 15;19(5):383-8. Epub 2012 Feb 2.