研究トピック
No.2プロポリスの抗インフルエンザ作用
アピは,岐阜大学人獣感染防御研究センターなどとの共同研究により,ブラジル産グリーンプロポリスの水抽出物に抗インフルエンザ作用があり,その主な活性成分は3,4-ジカフェオイルキナ酸であることを解明しました。この成果は「Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine」誌に2報にわたり掲載されました。
プロポリスは,ミツバチが巣の隙間を塞ぐため様々な植物の新芽や樹液から集めた樹脂状物質で,その抗菌活性により巣内を清潔に保ちます。また古来より世界各地で民間伝承薬として用いられ、最近ではサプリメントとして広く利用されています。
実験では,H1N1型インフルエンザAウイルスWSN/33株を使用しました。イヌ腎臓由来MDCK細胞にウイルスを添加すると感染により細胞生存率が低下しますが,同時にグリーン・プロポリスの水抽出物(WEP)を添加した場合には,細胞生存率の低下が抑えられました(図1A)。WEPの含有成分について検討したところ,3,4-ジカフェオイルキナ酸(3,4-diCQA)にもっとも強い作用がみられました(図1C)。このとき細胞一個当たりのウイルスRNA量には変化がなかったことから,WEPや3,4-diCQAはウイルスの増殖を直接阻害するのではなく,細胞の抵抗性を高めることにより抗インフルエンザウイルス作用を示すと考えられました。
次に,マウス鼻腔内へのウイルス接種による感染試験により,プロポリスの抗インフルエンザ作用を検討しました。対照群のマウスはウイルス接種後インフルエンザを発症し次第に生存率が低下しましたが,グリーン・プロポリスの水抽出物(WEP),エタノール抽出物(EEP)あるいは3,4-diCQAを投与した群では,生存率の低下を抑える効果がみられました(図3) 。また3,4-diCQA 投与によりマウスの肺におけるTRAIL (腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド)遺伝子の発現が増加しており,インフルエンザウイルスのクリアランスが亢進している可能性が考えられました。
プロポリスの抗ウイルス作用についてはこれまでにも研究されていましたが,ブラジル・ミナスジェライス州産のグリーン・プロポリス(起源植物:Baccharis dracunculifolia)の抗インフルエンザ作用や,それに関わる成分については明らかとなっていませんでした。プロポリスの作用の特徴はウイルスの増殖を直接抑制するのではなく,生体が本来持つ防御能力を高めることにあると考えられ,耐性ウイルスの出現に影響されにくいと予想されます。今後,プロポリスが予防ワクチンや抗ウイルス薬に加え「第三のインフルエンザ対策」として活用されるよう,さらに研究を進めたいと考えています。
Caffeoylquinic Acids Are Major Constituents with Potent Anti-Influenza Effects in Brazilian Green Propolis Water Extract
Tomohiko Urushisaki1, Tomoaki Takemura1, Shigemi Tazawa1, Mayuko Fukuoka2,3, Junji Hosokawa-Muto4, Yoko Araki1, and Kazuo Kuwata2,3,4
1Nagaragawa Research Center, API Co., Ltd., 2United Graduate School of Drug Discovery and Medical Information Sciences, Gifu University, 3CREST, Japan Science and Technology Agency, 4Center for Emerging Infectious Diseases, Gifu University
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine Volume 2011, Article ID 254914, doi:10.1155/2011/254914 (Epub 2011 Mar 1)
http://www.hindawi.com/journals/ecam/2011/254914/
3,4-Dicaffeoylquinic Acid, a Major Constituent of Brazilian Propolis, Increases TRAIL Expression and Extends the Lifetimes of Mice Infected with the Influenza A Virus
Tomoaki Takemura1, Tomohiko Urushisaki1, Mayuko Fukuoka2,3, Junji Hosokawa-Muto4,5, Taketoshi Hata1, Yumiko Okuda4, Sachie Hori4, Shigemi Tazawa1, Yoko Araki1, and Kazuo Kuwata2,3,4
1Nagaragawa Research Center, API Co., Ltd., 2United Graduate School of Drug Discovery and Medical Information Sciences, Gifu University, 3CREST, Japan Science and Technology Agency, 4Center for Emerging Infectious Diseases, Gifu University, 5 First Department of Forensic Science, National Research Institute of Police Science
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine Volume 2012, Article ID 946867, doi:10.1155/2012/946867 (Epub 2011 Aug 25)
http://www.hindawi.com/journals/ecam/2012/946867/